制作実績

ブランドを立てる仕事で実際に何をしているのか。 きれいな完成図ではなく、どこで何を捨てる判断をしたかを書いています。

プロデュースの中身は、足すことより捨てることのほうが多いです。 本人が持っている言葉のなかから、使えるものと使えないものを分ける。 狙える客のなかから、狙わない客を決める。 その判断の積み重ねが、最後に「その人にしか見えない輪郭」として残ります。

2026年以降、この仕事にはもう一つ相手が増えました。AIです。 原稿を書かせると、AIは驚くほど流暢に、そして驚くほど平均的に書いてきます。 仕事の半分は、その平均に引きずられないよう調律することになりました。 以下はその実録です。

&Wonder ── 案内人のブランドを、ゼロから立てた

  • クライアント河野若菜さん(声楽・40ヶ国以上を旅した探究者)
  • 依頼時の状態語れる経験は膨大にあるが、何者として立つかが未定。素材が言葉になっていない
  • やったことコンセプト定義/禁止語リスト/文体規約/コラム20本/ピラー2本/LP/サイト構築
  • 成果物andwonder.org(専用オリジナルテーマ・構造化データ込みで納品)
  • 期間継続プロデュース(月額制)

同じ素材から、こう変えた

左は、AIに任せて出てきた初期原稿のタイトルです。右は、同じ人の同じ体験から書き直した完成版。 人物も素材も一切変えていません。変えたのは何を言葉にしてよいかの規約だけです。

Before ── AIが書いた初期原稿

  • 20Hzの猫のゴロゴロ声。無意識の防衛線を優しく解除し、脳を強制デトックスする音響兵器
  • 680回の転生記憶が教える、魂の駆動OS。現世のしがらみを一瞬で無化する超越的認知
  • 認知科学の講義と実践。内部モデルをハックし、スコトーマを物理的に外す脳の外科手術
  • あなたの思考を縛る「スコトーマ(盲点)」の壊し方。レンズのアップデート手法
  • 「意味がわからない」を面白がる、大人の脳OS覚醒ブループリント

After ── 完成した20本

  • 問7「雲海の上で歌うつもりになったら、なぜ高音が楽になったのか?」
  • 問19「鉄は、アルミになろうと頑張るべきなのだろうか?」
  • 問1「数千億円の交渉より、みかんひとつが効いたのはなぜだろう?」
  • 問15「78歳のシスターと、50年ぶんの日本を交換できたのはなぜだろう?」
  • 問9「『弱く』歌うことに、なぜいちばんの熱量が要るのだろう?」

変化は3つです。断言が問いになった。記号語が身体と情景の言葉になった。 読者への説教が、本人の体験に置き換わった。

左の原稿は、うまく書けています。だから危ない。 「音響兵器」「魂の駆動OS」「脳の外科手術」——強い言葉が並んでいるので、 一読すると中身があるように見える。けれど誰が書いても同じものが出てきます。 この人が40ヶ国で見てきたものは、1行も残っていません。

5つの判断

上の変化を起こすために、順番に決めたことです。 それぞれ「初期案がどこへ流れようとしたか」と「なぜ止めたか」を書きます。

  1. 狙わない客を決めた

    初期案は「疲れた人」「すり減った人」を救う方向へ流れていきました。 虚しさ、燃え尽き、疲労回復——検索されやすい言葉が自然に集まってきます。

    これを全部外しました。弱っている人を集めると、お世話する関係が生まれる。 お世話が始まると、その場は対等ではなくなります。 狙いを「すでに自分の意思で動ける、能動的な探究者」に絞り直しました。 客を減らす判断ですが、場の質はここで決まります。

  2. 過去のキャリアを否定させなかった

    初期案は「論理やスキルは無機質で悪、感性や自分らしさは善」という構図を作ろうとしました。 自己啓発でいちばん売れる型です。

    採りませんでした。社会に適応するなかで磨いた論理は、捨てるべき枷ではなく一級品の財産です。 それを否定させるブランディングは、本人にも読者にも嘘をつくことになります。 代わりに「和える」——素材の良さを殺さずに合わせる——という日本語の比喩を軸に置きました。

  3. 使ってはいけない言葉のリストを作った

    「DoingとBeing」「脳のOS」「OSアップデート」「マインドセット」。 こうしたビジネス書由来の記号語が、放っておくと必ず混入してきます。

    全部禁止しました。「あなた」という二人称も同時に禁じています(説教の入口になるため)。 そのうえで、すべてを身体と情景の言葉に翻訳させました。 「舗装された道路」「感覚のセンサー」——手触りのある言葉に置き換えるだけで、 文章から借り物の匂いが消えます。

    正直に書いておくと、僕自身のブランドは「脳神経」「脳のOS」という言い方を看板に使っています。 自分が使っている言葉を、クライアントには禁じた。 プロデュースが型の複製ではなく、その人の素材ごとの一点物である証拠として、 この矛盾はそのまま置いておきます。

  4. 本人9割・指針1割の比率を決めた

    AIは親切なので、放っておくと客観的な解説と読者へのアドバイスで紙面を埋めます。 結果、本人の生々しい体験が削り落ちて、薄くて説教くさい文章になります。

    分量の9割を本人の葛藤と情景に固定し、ビジネス側のメッセージは最後の1割だけに制限しました。 あわせて、古い原稿の部分リライトを禁止して完全新規執筆を原則にしています。 AIに既存文章を触らせると、必ず平均に寄せてくるからです。

  5. 比喩の誤用を1語ずつ潰した

    「アングルをシフトする」という表現が繰り返し出てきました。意味は通るが、日本語として不自然です。 さらに「観る位置を変える話」と「知と感覚を合わせる話」が混ざって、主張がぼやけていました。

    「アングルはシフトしない。動かす、切り替える」と直しました。 そのうえで2つの話を別の柱として切り離しました。 1語の精度に時間をかけるかどうかで、ブランドの解像度は変わります。

ATHLETE FUTURE LAB ── 名前を出せないことを、武器に変える

元プロ野球選手のセカンドキャリアを扱うメディアです。 最高年俸3,000万円弱から戦力外通告を受け、日給1万円の世界に移り、そこから立ち直るまで。 語れる中身は圧倒的にあるのに、実名では絶対に書けない話でした。

普通なら「匿名だと信用されない」という弱点として処理します。逆にしました。 体験談は匿名、理論は実名という二層構造にして、 匿名性を「だからこそ本音が書ける」という一番の強みとして前に出しています。 信頼性は実名側(井元)が理論と裏付けで担保する分担です。

連載は「転落」「再起」「思考法」の3系統。 年俸3,000万時代の支出内訳、戦力外通告の瞬間に頭を駆け巡ったもの、 お歳暮50万円を断念した冬——具体的な金額と場面まで開示しています。 抽象論に逃げないほど、匿名の価値は上がります。

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毎回この順番でやっています

上の2件から抽出した手順です。個人・無形商品・コミュニティであれば、業種を問わず同じ順序で通せます。

原液を回収する

文字起こし・日記・過去原稿だけを素材にする。AIに一般論でコンセプトを作らせない。

記号語を禁止する

その業界で手垢のついた用語を使用禁止リストに入れ、身体と情景の言葉に翻訳させる。

過去を肯定して和える

これまでのキャリアを財産として最大評価したうえで、新しい要素との配合比率を設計する。

狙わない客を決める

読者を助けるべき弱者として扱うのをやめ、対等に遊べる相手に絞る。

本人9割で書く

9割を本人の体験と情景に、結論は1割に抑える。解説ではなく背中を見せる。

枠は3つまでにしています

1人あたりに要る時間が長いので、同時に見られるのは3件までです。現在1枠空いています。 満枠のときは正直に満枠とお伝えします。まずは、そもそも合うかどうかから話しましょう。

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